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「・・・死にたかったのか、お前」 「私は生き過ぎた。もうどれだけの時を生きたのかもわからない。私を愛してくれた人も、優しくしてくれた人もみな時の流れの中に消えていった。果てることのない時の流れの中で、私、一人」 今までとは違う、感情の宿った言葉。 悲しみと絶望に染まった彼女の瞳を見て、決心は更に固まった。 C.C.には返しきれないほどの恩がある。 彼女がいたからこそ今がある。 「そうか、どこまでやれるか解らないが、出来る限りのことはしよう。なにせギアスもだが、コードに関しての資料がない。悪いが実験には付き合ってもらうぞ」 「ああ、もちろんだ。それに、資料のことなら心当たりがある。ギアス嚮団にギアスとコードの情報が蓄えられているはずだ」 「ギアス嚮団?」 今まで聞いたことのない名前に、ルルーシュの眉が寄った。 「嘗て私が嚮主をしていたギアスの施設だ。そこではギアスとコードの研究が行われている。もちろんこの体を使った実験の記録も全て残っている。・・・いまの嚮主はV.V.だから、どれだけ非道な実験を行っているか、想像もできないがな」 初めて聞く情報の数々に、ルルーシュはすっと目を細めた。 「全て話せC.C.、お前の持つ情報全てをな。V.V.も不老不死と考えていいのか?」 「ああ。V.V.はシャルルの兄、お前の叔父だ」 「・・・なるほど。やるべきことが多く、人の寿命で終わるか心配だったが、叔父がコードを持っているということは、不老不死を移植する方法があるということだ。つまりそれを得ることができれば、俺の時間は無限となるわけか」 「お兄さま・・・」 「大丈夫だよ、ナナリー。何も心配はない」 心配しかありませんと言いたいが何も言えなかった。 その後ブリタニア本国も全ての機能が停止し、各国の同盟軍により攻め落とされた。 神聖ブリタニア帝国は解体され、新たな国が生まれつつある。 その裏で暗躍し、同盟軍をまとめ手駒としたゼロは影の指導者となっていた。 同盟軍を使いブリタニアを攻めると同時に自身はギアス嚮団に攻め込み、V.V.のコードを奪い、ギアス嚮団も手中に収めた。 それからは、世界各地にゼロとして指示を出しながらギアスとコードの資料に目を通す日々を過ごしていたのだが。 「おい、ルルーシュ!!枢木をどうにかしろ!!」 「なんでルルーシュ巻き込むんだよ!これは僕と君の問題だろ!」 研究室に突然乱入してきた二人の声に、ルルーシュはパソコンから顔を上げた。 スザクはすでに成人を超え、幼さは未だにあるが精悍な顔立ちになっていた。 心技体共に申し分なく、どこに出しても恥ずかしくない男だと自信を持って言える。 C.C.はあの頃と変わらないため、傍目から見れば大人気ないスザクが年の離れたC.C.と同レベルで喧嘩をしているように見えるが、実際はC.C.の方が遥かに上だから・・・と、くだらないことを考えながら二人の会話を聞いていた。 ふむ、二人だけの問題で、他は巻き込めない。 なんだろう・・・まさか!? 「・・・そうか。C.C.、お前のコードを継承できる者がいないか探すぞ」 「「は!?」」 突然、ルルーシュは悲しそうな、嬉しそうな、複雑な表情を浮かべながら言った。 「俺は・・・スザクはナナリーと・・・そう思っていたが、これは本人たちの気持ちが大事だからな・・・お前がそう望むなら無理強いはできない」 心の底から残念だというのが伝わってきて、二人は嫌な汗をかいた。 「ちょ、何の話!?」 ものすごく嫌な予感はするけど、意味が全くわからないとスザクは喚いた。 「お前、まさか・・・」 見た目は少女でも数百年を生きた老獪なC.C.は、悪寒の意味を悟ってしまった。 「やはり、愛するものは同じ時を歩むべきだ」 「愛するって、待って、ほんとに待って!?ものすごく嫌な予感がするんだけど!?」 「お前、まさか私とこいつが愛し合っているとか本気で考えてないよな?」 冗談だろう?と無表情で乾いた笑いをこぼすC.C.とは対象的に、二人の思いは十分わかっている、俺に隠す必要など無いのだと、今まで見たことがないほど・・・いや、ナナリー相手にしか見せないような慈愛の笑みを浮かべている。 ざわりと鳥肌がたち、二人の顔色は一瞬で悪くなった。 「お前たち最近ずっと一緒にいるし、喧嘩するほど仲がいいともいうだろう?理想はナナリーとスザクが幸せな家庭を築くことだったが、スザクにならC.C.を任せても・・・いやだが、ナナリーを・・・ああ、どうしたらいいんだ、スザクの意志を優先したいが、ナナリーが!」 ああ、何故スザクの体は一つなんだ!! 本気で頭を抱えているルルーシュを目にし二人は声を揃えて言った。 「「違う!!」」 二人は否定の言葉を上げるのだが、ルルーシュは聞いていなかった。 「ん?まてよ?スザクがコードを手にする選択も・・・」 「待てルルーシュ、まさかお前自分のコードを!?」 コードを消す研究を捨てる気か!? 永遠にこの男となんて今以上の地獄だ! 「君がいないのに不老不死になるなんて嫌だからね!!」 しかもこんな女と!! 「いや、資料によると、V.V.は皇帝や母さんにも内緒にして、コード能力者を一人嚮団施設の奥に封じているらしい」 研究材料にするために。 不老不死と言っても、痛みも恐怖もある。 実験材料になるということは、それらに耐えるということ。 V.V.は自分が苦しみたくない、痛い思いはしたくないからと、コード能力者を探しだし捉えていた。それを使えばスザクも不老不死だ。コード消滅の研究のためには、あちこちの土地を、遺跡を調べる必要も出てくるだろう。 C.C.のことはスザクに任せ、俺はそちらに専念すれば・・・ 「うんうん、いいねそれ!そのコード僕がもらうよ、そしてコードを消す研究に協力する!二人で世界中旅してまわろうよ」 「待て!私は反対だ!」 二人でってなんだ二人でって。 お前にルルーシュを渡すつもりはないぞ!! 「そのコード能力者どこ?僕、コードもらってくるよ!!」 「いや、この案は最終手段だ。あと10年ほど研究して進展が無ければの話で・・・おい、スザク!」 あっちかな?と、ルルーシュの話など聞きもしないでスザクは駆け出した。 「待て枢木!お前も一緒なんて冗談じゃない!」 C.C.は慌ててその後を追いかけた。 「・・・本当に、仲がいいな。まったく、いつの間にそんなことになってたんだ」 少し妬けてしまうな。 ルルーシュは再びパソコンに向かい、カタカタとキーボードを叩いた。 解体された神聖ブリタニア帝国の後に作られた国は合衆国ブリタニア。 嘗て宰相を務めていたシュナイゼルが、大統領となり国を治めている。 シュナイゼルには、クーデターの前に「ゼロに仕えよ」というギアスを掛けた。 だからゼロの望む平和を作るため、日々忙しい毎日を送っている。 各国の代表ももちろんそうやって操っている。 絶対に自分を裏切らない手駒。 だからこそ、こうして研究をしながら指示を出すだけで済むのだ。 ふと、モニターの横に置かれたナナリーの写真に目を向けた。 会いたいが、もう直接会うことが許されない最愛の妹。 不老不死となったからには共に過ごせない。 とは言え、突然兄が消えてしまえばナナリーに辛い思いをさせてしまう。 どうするべきか悩んでいた時に、嚮団施設でナナリーに似た少年を見つけた。 愛情を知らずに育った少年で、コードネームはロロという。 二人にギアスをかけ、ナナリーの兄はロロで、ロロには妹がいてそれがナナリーなのだという事にした。ギアスでナナリーの記憶を、思いを歪めることに抵抗はあったが、もう二度と会えない兄を恋しがるナナリーを見たくはない思いが勝った。 ナナリーの健やかな成長と、未来のために。 そう思いギアスで歪めた。 愛情を知らずに育ったロロは、そのままでは兄として役に立たない。 だから一年間ルルーシュはロロとともに過ごした。 そこでたっぷりの愛情与え、兄弟愛がどれほど素晴らしいか教えこんだ。 愛情に飢えた子供は、驚くほど簡単にこの手に堕ちた。 元暗殺者だけあって腕も立つ。 ナナリーの護衛として使えることは間違いない。 あとはスザクがナナリーのもとに行けば完璧な環境が出来上がったのだが、ギアスでスザクの恋心を捻じ曲げる訳にはいかない。今まで辛い思いをしてきたスザクとC.C.が互いを必要としているのだから、引き裂くなど・・・。 ルルーシュはそっと手を伸ばし、写真を手に取った。 写真の中のナナリーは両目を開け微笑んでいる。 ギアスで両目を封じられていたことが解ったため、研究の末手に入れたギアスキャンセラーで、彼女にかけられたギアスを解除し、両目は見えるようになっていた。 幸せそうに微笑むナナリーに、ルルーシュもまた微笑んだ 彼女にはもう、ルルーシュという名の兄はいない。 今の彼女の同腹の兄はロロ。 第11皇子のロロ・ヴィ・ブリタニアだ。 「・・・これが、最善手だ」 自分に言い聞かせるようにポツリと呟いた。 「愛しているよ、ナナリー」 永遠に。 写真を戻すと、再び手を動かした。 自分がすべきことは、平和な世界の基盤づくりと、彼らを不死から開放すること。 成すべき事はまだまだあると、口元に笑みを浮かべながらキーボードを叩き続けた。 |